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紅ノ蝶

紅ノ蝶

あなただけに



教室には授業をしている先生の声が響いている。


(バカでも、風邪は引くんだな…。)

シンジはふと、となりの席を見た。

いつもとなりで話しかけてくるヒカリは今日は風邪のため休みだったのだ。





〈あなただけに〉






「シンジ!」

放課後珍しく部活がなかったシンジが帰ろうとした時に呼び止められた。


「もう、帰るのか?」

呼び止めたのは、ヒカリの親友のオレンジ色の髪をしたボーイッシュな少女、ノゾミだった。

「ああ。」

「だったらさ、これヒカリに届けてくれない?」

そう言うと、プリントの束を差し出した。

「何で俺が…」

「だってあんた今日部活ないんでしょ?私部活あって、夜遅くになるし。」


愛想のない顔がもっと機嫌の悪そうな顔になる。

「…使えないやつ…。」


「ここか…。」

ノゾミに貰った地図を片手にヒカリの家前で呟いた。


『ピンポーン』


バタバタと足音がしたと思うと、その主が現れた。

「どちら様…ってシンジ!?」

少し頬を赤くしてきょとんとした顔でヒカリはシンジを出迎えた。


「どうして…てか、あがって。」


「何でシンジがうちに来てんの!?」

本当に風邪なのか疑うくらい明るく尋ねた。

「あの女に頼まれたんだよ…。」

そう言ってとプリントを差し出す。

「ああ、ノゾミね。わざわざありがとう。」


「にしても…。バカでも風邪引くんだな…。」

見下したように、鼻で笑う。

「なによ!!!あんたって本当にかわいくない!!!」

ぷいと反対を向いてブツブツ呟いた。


「…じゃあ俺は帰るから…。」

「えっ、ちょと待って…。」

ヒカリがシンジの腕をつかむ。


「熱ある奴は早く寝ろ。」

「そんな、熱なんてな「熱い…。」

言いかけた言葉を途中で遮られる。

シンジはそっとヒカリの額に手を置いた。

(~~~~っ!!!)

みるみるヒカリの顔が赤くなる。

「ちょ、ちょっと…!」

「熱あるじゃねーか。自己管理もできないのか…。本当にぬるいやつ…。」

「う、うるさいっっっ!!!」

顔を真っ赤にして強く言い放つ。


「じゃあな…。」

「ちょ、シンジ。」

「…なんだよ…。」

めんどくさそうなため息が聞こえる。


「…あげる…。」

斜め下を向いてぶっきらぼうに小さな包みを差し出した。

「きょ、今日バレンタインでしょ。本当は学校で渡そうと思ってたけど…。プリント届けてくれたお礼もかねてね!」

そっと、包みを受け取り心配そうに呟いた。


「…これ、食えるのか?」

「ちゃんと食べれるわよ!」

本当にかわいくない!言いながらぷいっと後ろを向く。


「ありがとう…。」

がちゃと扉が閉まる音と同時にそれはヒカリの耳にしっかり届いた。


「えっ………。」

振り返るとシンジの姿はもうなかった。


「シンジ今、ありがとうって…。」


たまには風邪をひくのもいいかもと思うヒカリであった。



次の日学校に出てきたヒカリの機嫌がよかったのは言うまでもなかった。




*おまけ*
「なあ、ノゾミ~。」

「なんだよ…。」

「おれ、今年ピカリからチョコ貰ってない…。」

「今年はヒカリ、本命だけだってさ。私もまだ貰ってない。」

「ええっ!!!ピカリ好きな奴いるの!?」

「(あんなにわかりやすいのに…。)自分で聞いてみれば…。」

「んなことできるわけないだろ!…っておい、待てよ!ノゾミ~!!」

(ケンゴ、相手が悪い。知らぬが仏だよ…。)


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2008.2.16
ケンゴはヒカリの好きな人は知らないと思う・・・。
勘違いはしてそうだけど。



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